点字ブロックのゆううつ

紙や道具であふれた光島の作業机
紙や道具であふれた光島の作業机

 いま考えている最中の作品は、「新しい点字ブロック」というシリーズの第2弾です。ところが、その下描きは、どうしてもインクルーシブデザインのモックアップになってしまうのです。次から次へと新しいアイデアは思い浮かぶのですが、やっぱり自分の使い勝手を追い求めてしまい、実用本位でおもしろみのないものになってしまいます。

 なぜ作れないか!!  先日、ホームからの転落事故の話を耳にしたとき、見えない人が落ちたという話ではないにもかかわらず、ぼくの瞬発力は「ホームぎわの新しい点字ブロック」というきわめて実用的な点字ブロックを作ってしまいました。それほどまでに点字ブロックは、ぼくにとって欠かすことのできないものになっているようです。

 しかし、いま目指しているのは「福祉機器展での新作」ではありません。実用的ではないけど何か楽しそう、という遊び心を持った点字ブロックを作りたいのです。…と、理屈ではわかっているのに作れない!!

 すこし話は変わりますが、ぼくは日常の音をすんなりとは楽しめません。ぼくが部屋にいて注目するのは、エアコンの送風口から吹き出す風の音です。その音の方向で、部屋の中でのエアコンの位置を知ります。声が聞こえてくる方向で、その人のいる場所を知ることができます。声の飛び出し具合で、話し手の気持ちの熱心さであったり、上の空であったりすることを知ります。これは、音や声のきわめて実用的な使い方ですね。

 でも、そういう使い方ではない、音の楽しさやおもしろさを感じることもあるはずなのです。「新しい点字ブロック」でやりたいことは、そういう感覚を、自分の中から呼び起こそうということなのでしょう。試行錯誤しながら、時にしょんぼりしながらもがんばっています。

 このアトリエの建物を長年使っていた高垣織物の創始者は、ぼくのおじに当たる人でした。子どもの頃に正月の挨拶で会ったぐらいで、あまり交流はありませんでした。その人は、西陣織の新しい図案を次々と考案し、一代で事業を成した人と聞いています。きっとこの家で試行錯誤しながら図案を考えていたのだろうと、ふとそんなことを考えてしまいました。