鴨川の風

大塚まさじのCD
大塚まさじのCD

 大塚まさじというシンガーをご存知でしょうか。フォーク世代の人なら「ザ・ディラン II」のボーカルと言えばわかってもらえるかもしれません。ぼくも中学・高校時代はフォークギターを弾いていて、この「ザ・ディラン II」には大きな影響を受けました。


 声は独得です。チューインガムを噛みながら歌うかのような粘りつく声。かなりビブラートをきかせた歌声です。とってもいいなぁと思う時と、気分によってはとても耐えられないと思ってしまう時もあります。

 何気なくFacebookをスクリーンリーダーで早聞きしていたら、彼が2017年にリリースした「いのち」というアルバムを発見してしまいました。ザ・ディラン II が解散したのは1974年です。それ以後の彼のアルバムは聴かないことにしていたのですが、何の弾みか、このアルバムを買ってしまいました。

 歌声はさらに進化したというか、ちょっと苦しそうな声で、つまづくような歌い方に変化していました。ところが、以前にくらべると伸びのない、ガムをのばしてはプツプツ切るようなこの歌い方に、ぼくははまってしまいました。

 そして4曲目の「八尾の風」で、もうノックアウト。

 川をつたって 風が吹く
 それは恵みか 悲しみか

 5年前に肺がんで死んだ友人のことが、頭をよぎりました。八尾はたしか彼が生まれたところ。実際に彼に手引きされて歩いたのは、鴨川。出町あたりから荒神橋まで一緒に歩いた時のことがリアルによみがえってきたのです。

 夏の終わりでした。11月ぐらいだったのかもしれません。なぜ鴨川だったのかは思いだせませんが、彼のリクエストで歩いたことは間違いありません。歩き続けるとしんどくなるようで、荒神橋で散歩を終えて河原町通に出たのをおぼえています。たぶんこの歌は恋人との歌だと思うのですが、なぜか彼のことが思いだされます。一度頭に焼きつけられると、くり返しよみがえってくるのです。
 
 彼と初めて会ったのは、大谷大学の入学式で隣に座った時です。それがきっかけで交流が始まり、ゼミで一緒になったり、飲みに行ったり、いろいろなことにもつき合ってくれました。この関係がずっと続いた理由は、歌の趣味が合ったからだろうと思います。最後に一緒に聞きに行ったのは、大阪のサンケイホールでの高石友也のコンサートでした。終わってから「おいしいな」と言いながら、日本酒を2合ほど飲んでわかれたのが最後で、その3ヶ月後に逝ってしまいました。

 待っていても はじまらないと
 出かけてみたら 見つけたよ
 風待ち顔で ほほえむ君
 ・・・
 夏の終わりの 風が吹き
 祈りの唄で 踊ろうか
 君が夢見た あこがれを
 二人で暖め 分かち合う
 忘れていたよ こんな気持ち

 そして、鴨川で思い出すのは4回生ぐらいの時のことです。ギターを持って夜の鴨川へ行き2人で歌いました。北山橋の近くだったと思います。歌ったのは、ボブ・ディランの「I shall be releast」です。大塚まさじの解釈で「男らしいってわかるかい」というタイトルで歌われている名曲ですね。歌い終わると、暗闇の中からなぜか拍手と口笛が聞こえてきました。「最高」という通りすがりの男性の声。

 友人とハモったのは、
 
 その時その日こそ 自由になるんだ
 
というフレーズでした。

 そんなことを思いだしながら、何度もこのアルバムを聴いています。