ハイブリッドな身体表現かも?(後編)

パフォーマンス中のくろとみつ(Photo: Toshie Kusamoto)
パフォーマンス中のくろとみつ(Photo: Toshie Kusamoto)

 なんと言っても、くろさんと背泳ぎでどんどんギャラリーの北に向かって進んだときのことが印象に残っています。それは、せいいっぱい体を動かしたという満足感でもあります。そして、これまではこの動いたという満足感で十分だったのですが、今回は後に感じる無力感が待っていました。

 なぜ北に向かっているかがわかったかと言うと、進んでいくうちに背中に感じる床が冷たくなっていったからです。当日は日中の気温が上がったため、エアコンを切ることができました。それでも「Sawa-Tadori」では、南側の日当たりのいい場所に比べて北側の方はかなり冷えているようです。そして「北海道にたどり着いた」などと言いながら北端のロープに手が届き、90度方向を変えたのを覚えています。

 それからどういう展開になったのか記憶が怪しいですが、次にくろさんに語りかけたのは「木を表現してほしい」ということでした。体で木を表現するとどういう動きになるのかを知りたいと同時に、そのかたちをラインテープで描くということを考えていました。

 くろさんの木は、移動し始めました。ぼくは木につながろうとしたり、もう一本の木になろうとしたり、枝になろうとしたり、落ち葉が風に舞う様子を表現しようとしたりしていたと思います。いずれもうまくいっていたとは思えません。身体を使ってさまざまなモチーフを表すためのぼくの身体表現のストックが圧倒的に不足しています。くろさんの木をなぞるだけで、そこから一歩も先に進むことができなかったという反省です。たぶん、大きな動きだけでなく、小さな動きでも何か存在感のある表現ができるのだろうとも思いました。自分なりの何かを想像しなければと思ったり、いろんなことが頭を駆けめぐっていました。

 それでも、くろさんの身体から吸収したこの時の印象をしっかり頭に刻み込んで、可動壁の両面と床、そして、ぼくが Sawa-Tadori の中で一番嫌いな存在である鉄柱(二度ほど頭をぶつけているから)にもラインテープを延ばしました。くろさんが見つけてきてくれたお客さんにも根っこを描くのを手伝ってもらったり、葉っぱや鳥を切り抜いてもらいました。

 ぼくがラインテープを使っているときには、くろさんは離れたところから見ていたり、体を動かしていたり、声が漂ってきたりしていました。ですが、くろさんの身体を直接感じていないと何だか不安になってくるのです。淡々と描いているとお客さんもくろさんも時間を持て余しているのでは…とか、早く描き上げないと…などとあせってしまい、ラインテープを手渡してくれるスタッフに、このとき一度だけこっそり時間を尋ねました。14時35分でした。

 最後に待っていたのは、先ほどさわったくろさんの顔を描くことでした。細長い顔という印象だったので、とっさに思いついたのは、可動壁の側面を使って描くことでした。このアイデアは我ながらよく思いついたと思っていますが、さてできあがった顔は?

 最後はみんな集まってきていて、書き終えた絵を見てくれていたようでした。一言ずつあいさつをして終わりました。このような終わり方は想定外でした。

 今、「見えない人にとっての振付とは何か」という難しい問いについて考え始めています。今回のパフォーマンスが、この課題を考えていくきっかけとなればいいのですが。